山本弘トンデモ資料展
2008年度版13−C


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山本弘のSF秘密基地BLOG
2008年10月3日 19:20

「……に見える」という罠






 今日は気分を変えて、こんなページを紹介しよう。
 何の予備知識もなしに見ていただきたい。

北岡明佳の錯視のページ










 これは見た人間はおそらく全員、最初は「アニメーションだ」と思ったはずである。僕もそう思った。
 しかし、これは静止画なのだ。
 ウソだと思うなら、1匹の「蛇」だけじっと観察してみればいい。実は回転なんかしていないことが分かる。
 なぜこう見えるのかという原理の説明はあるのだが、不思議なのは、説明されてもなお、回転しているようにしか見えないということだ。

 こうした錯視・錯覚の例は日常生活でもある。
 たとえば月の大きさ。地平線近くにある月は、天頂近くにある月より大きく見える。誰が見てもそう見えるのだ。
 じゃあ、地平線近くの月は天頂の月よりも近くにあるのか……というと、そんなことはぜんぜんない。地球からの距離は変わらない。(厳密に言うと、天頂にある時の方が地球の半径分だけ接近するので、6000kmほど近い)

 よく超能力者を擁護する人が使うフレーズに、「私がこの目で見たから確かです」とか「トリックなんかありませんでした」というものがある。
 そういう人はトリックを100%見破れるとでも思っているのだろうか。僕もテレビでマジシャンの演技をよく見るが、1回見ただけではトリックが見破れないものがほとんどである。何度もビデオで見直して、ようやくタネが分かってくる。
 人間の目なんか信用してはいけない。目は実に簡単にあざむかれる。

 9.11陰謀論者のお得意の論法は、ツインタワーが倒壊する映像が「爆破解体に見える」というものである。「爆破解体に見えるから爆破解体だ」というのだ。
 しかし、実際の爆破解体では、建物の倒壊がはじまる直前に、建物全体に仕掛けられた爆薬がいっせいに爆発するのが見える。ツインタワーではそんなものは見えない。
 そもそも、ビルを爆破解体するには、ただ爆弾を置けばいいというものではない。確実に破壊するには、柱に穴を開けて爆薬を詰めこむ作業が必要だ。しかも大きなビルの場合、爆薬の総量は何百kgにもなる。大勢の人が出入りしているビルに、こっそり仕掛けるなんて不可能なのだ。
 だいたい、何でそんな手間をかけて爆破解体しなくちゃならんのか。旅客機を突っこませるだけで十分ではないか。
 つまり理屈からするとそんなことはありえないのだが、陰謀論者は「爆破解体に見える」という理由で固執し続ける。

 アポロ陰謀説もそうだ。
「本物の月面のように見えない」
「スタジオで撮影したように見える」
「飛行士をワイヤーで吊ってるように見える」
「スローモーションのように見える」
 見える、見える、見える……根拠はもっぱら素人の主観である。
 僕などは高校時代、アポロ15号で月面車が月面を走行する様を初めて見て、車輪が巻き上げる砂塵が正確な放物線を描いて落下すること(真空中でしかありえないことだ)に感動したものだが。
「影の向きがおかしい。光源がいくつもある証拠だ」
 などという者もいる。光源がいくつもあったら影もいくつもできるだろうが。だいたい、あんな広いスタジオだか砂漠だかを一様に照らさせる単一光源って何だ。そんなもんないぞ、太陽以外には。

(先回りして言っておくと、「じゃあこれはどう説明するんだ」という類の質問はお断りする。9.11陰謀説については奥菜秀次『陰謀論の罠』を、アポロ陰謀説については『人類の月面着陸はあったんだ論』をお読みいただきたい。あなたの疑問はすでに説明済みだから)

 今回の神舟7号疑惑も、構造は9.11陰謀説やアポロ陰謀説とまったく同じである。
「泡に見える」
「水中で撮影したように見える」
「吊っているように見える」
 根拠はこれだけである。
 すでに説明したように、旗の挙動を見る限り、水中で撮影したものでないことは明白である。松浦氏も指摘しているが、動画の最初の00:07あたりで、飛行士が旗を振った拍子に、旗がくるりと軸に巻きつく場面がある。水中ならこんな動きはありえない。旗の材質が何か分からないが、あんな薄くて面積の大きいものなら水の抵抗を受けるから、常に軸にひっぱられるようにしか動かないはずである。
 水中ではないのだから、泡もありえない。
 にももかわらず、依然として陰謀論者は「泡に見える」「水中で撮影したように見える」と言い続ける。
 間違いでも百万回言ったら正しくなるとでも思っているのか。

 もし「××に見えるから××だ」という論理が許されるなら、地平線近くの月は地球に近いことになる。北岡氏の「蛇の錯視」はアニメーションということになる。マジシャンはみんな魔法で物体を浮かしたりウサギを出していることになる。
 主観に頼って判断するのは危険だ。重視すべきは正しい知識と正しい論理なのである。

追記:
 さらに先回りして言っておくと、以下の類のコメントは禁止させていただく。投稿されても削除する

・前の2つのエントリですでに説明済みのことを「説明しろ」「コメントしろ」という要求。(説明済みのことに説明を要求するのはトンデモさんの特徴である)
・松浦氏のブログにある説明を読まずに書いたことが明白なコメント。
・「エキサイトしすぎ」「落ち着け」「ニコニコや2ちゃんねるに本気で腹を立てなくてもwww」などというコメント。あなたにとってはどうでもいい問題かもしれないが、僕ら科学を愛する者たちにとっては、疑似科学や陰謀論が広まるのは重大問題なのだ。
・問題の本質から目をそらし、「バカ」発言の是非にこだわるコメント。
・それでも「泡に見える」「水中撮影に見える」と主張する頑固なコメント。
・神舟問題とは関係ない中国への批判。どこかよそでやってくれ。
この記事へのコメント
今まで、会長の心情も知らず「もちつけ」とかのコメントを書き込んでしまい、申し訳ありません。

すこし話がそれますが、京都大学工学部情報学研究科の逢沢準教授の著書に、『京大式ロジカルシンキング』(2008年、サンマーク文庫)というものがあります。その中で、「MECE」という概念が紹介されています。

MECEとは、
M=Muturally:お互いに
E=Exclusive:重ならず
C=Collectively:全体を
E=Exhaustive:網羅して
のことです。

また、ある証拠から仮説を形成するに当たり、他の仮説でも説明がつくかどうかを良く判断する必要があります。


なぜ、この話を出したのか。


VTRで何かが横切ったという証拠から、確かに「あれは泡だ」と言う仮説はたてられるかもしれません。しかしながら、他の可能性は?それこそ、フケだとか、スペースシャトルの剥離片だとか、スペース・デブリだとか、他にも仮説がたてられるでしょう?
ゲームをし過ぎている子供がテストの成績が悪い、という証拠に対し、ゲーム脳という仮説もあるでしょう。けれども、単に勉強してないだけ、という仮説もあるでしょう?
某邦画が「死霊の盆踊りの10分の1以下の感動と衝撃しか無いゴミ映画」「友情や愛情を破壊するクズ映画」と言われるという証拠に対し、主役がカスだという仮説もあるでしょう。けれども、他にも、意味もなく登場するカメオだとか、監督がダメだとか、そういった仮説も考えられるでしょう?(もっとも、この映画の場合すべて当てはまるのだから哀しい限りである)


話がそれすぎてしまいました。
要は、一つの仮説が思い浮かんだとしても、それだけで満足してはいけないということです。これを心がけただけで、トンデモ説を信じる罠から避けられる可能性が高くなります。
Posted by Xbeta at 2008年10月03日 22:15
 ご紹介の図柄は本になってますね。先日見かけて、立ち読みしていたらめまいがした(^^ ほんと何度見てもうねうね動いてみえるのは不思議ですね。
 月の錯視はこんな見方をするとよりはっきりします。天上にある月の大きさはだいたい腕を伸ばした時の人差し指の爪と同じくらいの大きさなんです。で、登り始めたでっかい月に自分の指を近づけてみるとあら不思議。さっきまであんなに大きくみえていた月が見る見る縮んでしまいます。
 一度おためしあれ。
Posted by コワファイター at 2008年10月03日 22:37
削除される系のコメントかもしれませんが一言。
山本さんも検証動画を作ってニコニコに上げたらどうでしょう。

それが動画時代のスマートな反論方法だと思います。
Posted by 黒田 at 2008年10月04日 11:45
立命館大学の土曜講座で北岡先生の講義がありますよ。今日の午後2時からなので、いますぐですけど。予約不要入場無料です。
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/kikou/doyokozakikoh.htm
Posted by harabai at 2008年10月04日 12:12
人間にもインプリンティングがあります。
どうも、最初に見聞きしたことをそのまま信じてしまうことが多いようです。
特に雑学が好きだと自負している方に多いようで、人に話しているうちに引っ込みが付かなくなるのでしょうね。
柔軟な思考があれば、他説というのはまた新しい話のネタだと思うのですが中々そこまでは考えないようですね。

ただ今回のことは間違いなく山本さんの言う方が正しい。
もし、ねつ造だとするならば多分宇宙開発よりも莫大な労力を費やしたとんでもないねつ造だと思います。
賞賛することはあってもバカには出来ませんね。
Posted by berius at 2008年10月04日 16:15
P.S.

ニコニコ大百科の神舟7号の記事が素敵なのでリンクを貼らせてもらいます。

http://dic.nicovideo.jp/a/%E7%A5%9E%E8%88%9F7%E5%8F%B7

トンデモ説とその反論が両方掲載されているあたり、なかなかいい構成ではないかと思います。
このリビジョンの核部分を作成したのはニコニコ大百科編集者(プレミアム会員)の一人、"甘味一筋二十年"氏。素晴らしいです。
Posted by Xbeta at 2008年10月04日 19:09
初めまして。前回の記事を拝見し、酷い状況だったニコニコ大百科記事の編集に役立たせてもらいました。
http://dic.nicovideo.jp/a/%E7%A5%9E%E8%88%9F7%E5%8F%B7
…のように見える、ということだけで事を推し量ることは確かに危険ですね。
上記URLの記事でも書きましたが、水中であると仮定した上で疑問を投げかけているように感じます。
少し考えれば気づくような事をおかしいと感じ、疑問にする。さらに調べようともしない。
ある種の思考停止状態、更にその先入観も中国であるという事から始まっている。
軽い趣味程度しか科学に関する知識はありませんが「僕ら科学を愛する者たちにとっては、疑似科学や陰謀論が広まるのは重大問題なのだ。」には同感です。
Posted by 甘味一筋二十年 at 2008年10月04日 20:28
http://web.mit.edu/persci/people/adelson/checkershadow_illusion.html
この「チェッカー・シャドウ錯視」も面白いですね。
これまで何人かの知人や同僚に上記のサイトを紹介しましたが、大抵はロクに確認もしないで「インチキ呼ばわり」されます。
ちょっとPCの知識があればピクセルの比較なんかすぐにできるのに・・・
Posted by EBCDIC at 2008年10月04日 21:40
>EBIDIC氏

確かに違う色に見えてしまいますね。しかし、確認もせずにインチキって…
あと、英語が読めれば、その人の証明の記事に気づくと思うんですけどね。(左下の"proof"のリンク)

で、またニコニコ大百科のあの記事を見てみたら…
ハンドルネーム"名無しさん@自作小説書いてます"なる人が自分も紹介した「京大式ロジカルシンキング」その他を紹介されているので笑いました。

ニコニコにも良識派が少なくとも2人(掲示板書き込みを含めたら10人くらい?)いるのでうれしい限りです…

ってなんでそんなこと話す羽目になったんだろう?
Posted by Xbeta at 2008年10月05日 11:24
9.11陰謀論は、旅客機一機が突っ込んだ程度で倒壊する設計ではなかったといった説が根拠になってて、しかも自由落下速度(ほぼ)で崩壊。
その謎に対して、じゃあ爆破解体か?という一つの短絡的な考え方が出ているに過ぎないのでは。
陰謀論者の全てが「爆破解体に見えるから」という理由に固執してるわけではないと思います。
都合の悪い部分は触れなかったり、著者本人も全てが分かっているとは書いてない奥菜氏の著書で疑問が全て説明されているという書き方は、陰謀論者と一緒です。
Posted by まーご at 2008年10月05日 17:28
>黒田さん
>山本さんも検証動画を作ってニコニコに上げたらどうでしょう。

反対意見の人が、水中で同じような映像が撮れる事を証明するのが先でしょう。
心霊写真の謎を暴くのと一緒です。
多分、頑張ってみて気づくと思いますよ。
宇宙に行って撮ってきた方が早いって。
Posted by berius at 2008年10月05日 20:21

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