山本弘トンデモ資料展
2010年度版2−A


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山本弘のSF秘密基地BLOG
2010年01月23日 18:42

ライトノベルを応援します






 新春早々に買ったのが、有川浩『シアター!』(メディアワークス文庫)。これを読んで考えさせられた。
 小劇団シアターフラッグの主宰をやっている春川巧(脚本の才能はあるけど実務的なスキルは壊滅状態)が300万円の借金を抱えてしまい、劇団は解散の危機に陥る。泣きつかれた兄の司(芝居のことはさっぱり分からないけど実務の才能は天才的)が、300万円を肩代わりし、劇団の再建に乗り出す……というストーリー。
 いつものことながら、有川さんのリーダビリティはすごい。他の作家の小説だと、途中でひっかかったり、退屈に感じたりする部分が必ずあるのだが、この人の小説はすらすら読めてしまう。この『シアター!』も、無駄な部分が徹底的に削ぎ落とされ、最初から最後まで面白い場面、面白いやりとりの連続。テンションが落ちる間がないのだ。ラスト近くにはスリリングな展開もある。まさに一級のエンターテインメント。
 すらすら読めるからと言って、すらすら書けるというものではない。毎度のことながら、登場人物の思惑の交錯が見事である。Aという人物はBから見るとこうで、そのAとBの関係をCから見るとこうで、でもAがこういうことを言うからCはこうせざるを得なくて……といった複数の視点からの描きわけが実に上手いのだ。
 この小説の中に、こんなくだりがある。

 どんなジャンルであっても、客層を広げる可能性を持っているのは玄人好みの商品ではない。素人がカジュアルに楽しめる商品だ。カジュアルな商品こそそのジャンルの間口であって、それを軽んじる業界は廃れる。新規の客を弾くからだ。
 シアターフラッグだけではない。分かりやすいエンターテインメントを目指す劇団はどこもなかなか評価されない。カジュアルなエンタメで万単位の集客を誇る劇団もあるが、そこも未だにメインストリームからは無視されているという。一跳ねしたらもてはやされるという話だが、集客を万に乗せてまだ無視されるなら跳ねたと認めてもらえるラインは一体どこだ。
 プロパーに評価される作品が悪いというわけではない。それは業界で確かに必要なものだろう。しかし、それとは別に新しい客を連れてくる商品を冷遇するような業界は、決して社会のメインストリームにはなれない。分かりやすいものを軽視する風潮には、商業的に成立するために不可欠な一般客への侮蔑がある。
 自分の気に入った商品がバカにされるような業界に一体誰が金を落としたいものか。
 外から見たら苛立つほど転倒している価値観に自分の身内が振り回されているのは、毎度のことながら不愉快だった。


 有川さんは演劇の世界のこととして書いてるけど、これ、明らかに小説業界を念頭に置いてるよね。
 たとえばライトノベル。あれだけたくさん出ていて、シリーズで何百万部も売れているものがあって、傑作もたくさんあるというのに、ライトノベルだというだけで出版業界の中では評価されない。新聞や週刊誌でもめったに紹介されない。毎月、書評欄できちんとライトノベルを取り上げている雑誌は、『SFマガジン』ぐらいのもんじゃないだろうか。
 かわいい女の子のイラストがいっぱいついているのは悪いことなのか。読みやすいのは悪いことなのか。
 否、である。
 読書だって楽しい方がいいに決まってる。読みやすい方がいいに決まってる。
 確かに難解で読みにくい小説も必要だろう。僕もそれを否定する気は毛頭ない。
 だが、いきなりそんなものを読みたがる読者なんていないはずだ。分かりやすくて面白い娯楽作品から入って、小説の魅力に目覚め、その読者の一部がだんだん重厚なものや難解なものに移ってゆくものだろう。有川さんの言う通り、入口の存在を否定してはいかんと思うのだ。

 実は最近、僕が読んでいる小説の大半がラノベである(笑)。だって、面白いんだよ! 若く優れた才能が次々に現われるのを見るのは、実にエキサイティングだ。
 もちろん、スタージョンの法則というやつで、大半はクズなんだろうけど、傑作もたくさんある。特に新人賞に入選した作品となると、何百編というライバルとの競争を勝ち抜いてきたのだから、さすがにハズレがない。こういうものを評価しないというのはおかしい。
 出版業界が無視しようとも、僕はラノベを応援する!
 というわけで、僕が最近読んだ作品の中から、感心した作品をいくつか紹介したい。

・逢空万太『這いよれ!ニャル子さん』
(GA文庫)
 第1回GA文庫大賞 優秀賞

・川岸殴魚『やむなく覚醒!!邪神大沼』
(ガガガ文庫)
 第3回小学館ライトノベル大賞ガガガ文庫部門 審査員特別賞

 どちらも優れたコメディ。若い頃に筒井康隆氏や横田順彌氏のハチャメチャ小説を愛読した者としては、こういう路線にはまったく抵抗がない。と言うか大好き。シリアス展開に逃げずに、ひたすら大バカなギャグの連続で押し切るのがいい。
 僕も『ギャラクシー・トリッパー美葉』とか書いてたから分かるけど、ギャグを貫くって大変なんである。途中でしんどくなって、シリアスに逃げたくなったり、感動的な話にしたくなるのである。だって、泣かせるよりも笑わせる方が数段難しいから。『ジャンプ』のギャグマンガがシリアス路線にシフトしていくことが多いのも、きっとそうなんだろう。(『美葉』も3巻の最後はシリアスになっちゃったし)
 世間では何となく、コミカルなものはシリアスなものよりランクが下、と思われているみたいだけど。そんなことないよ。面白いコメディを書ける人間は才能があると思う。

・川原礫『アクセル・ワールド』
(電撃文庫)
 第15回電撃小説大賞 大賞

 シリアスなゲームバトルもの。現実世界とゲーム空間が地続きになっていて、意識が加速された空間内でのバトルが展開するという設定がわくわくする。「脳のクロック周波数」という説明は、んなアホな、と思いつつも感心した。こういう面白い嘘には喜んで騙されよう!
 もっとも、デブでいじめられっ子の少年がゲーム世界ではヒーローになり、さらには美少女にも惚れられるという願望充足的な設定に、ひっかかる人もいるかもしれない。主人公の片想いでも良かったんじゃないかって気がする。
 同じ作者の『ソードアート・オンライン』はこれから読む。

・橘公司『蒼穹のカルマ』
(富士見ファンタジア文庫)
 第20回ファンタジア長篇小説大賞 準入選

 いい意味で騙された作品。表紙とオビのコピーで、シリアスなバトルものかと思ったら、実はこれまた大バカ!
『スレイヤーズ!』と比較する声があるのはよく分かる。世界平和も正義も眼中になく、姪の学校の参観日に駆けつけるために、強敵を打ち倒し難関をぶち破ってゆくヒロインのパワフルさには脱帽した。

 他にも、紹介したい作品や、まだこれからチェックする作品がいろいろあるんだけど、今のところイチ押しはこれ。

・静月遠火『パララバ-Parallel lovers-』
(電撃文庫)
 第15回電撃小説大賞 金賞

 高校2年の遠野綾は、他校の生徒・村瀬一哉に恋していたが、ある日、一哉は急死してしまう。悲しむ綾の携帯電話に、死んだはずの一哉から電話がかかってくる。彼の世界では、死んだのは綾の方だというのだ……。
 表紙見返しには、こう書いてある。

 二人の行き着く真実とは!? 出会えぬ二人の運命は!? 携帯電話が繋ぐパラレル・ラブストーリー。切なさともどかしさが堪らない。

 これを読んだら、ファンタジー的な設定を用いたラブストーリーかな、と勘違いしそうである。騙されてはいけない。もちろんラブストーリーの要素もあるけど、主眼はそこじゃない。

 これはSFミステリなんである。それもかなり本格的な。

 一哉の世界における綾は、夜道で何者かに刺殺されていた。綾の世界における一哉も、事故死だと思われていたが、やはり誰かに殺されていた疑いが出てくる。殺人犯は同一人物なのか? その動機は?
 綾と一哉は、それぞれの愛する人の仇を討つため、事件を解明しようと決意する。二人は携帯電話で情報を交換し、ふたつのパラレルワールドの齟齬を比較することで、どこで時間が分岐したかを調べ、それを元に真相を探ってゆく……。
 ばらばらに見えた多くの情報が、すべて伏線となって真相へと収束してゆくのは見事。いくつかの謎の真相は途中で見当がつくし、ヒロインが犯人の見え見えの罠にひっかかってピンチに陥るのはちとマヌケだが、その後さらに二転三転してサスペンスが持続するのが面白い。「ああ、あれが伏線か!?」と膝を叩くことも何度か。

 あとがきを読んで納得した。作者は10代の頃に読んだ高畑京一郎『タイム・リープ』に強い影響を受けたのだそうだ。なるほど、設定はぜんぜん違うけど、この雰囲気は確かに『タイム・リープ』だ。一方はタイムスリップ、一方はパラレルワールドという設定を使い、少女の恋をからませたSFミステリだ。
 言うまでもなく、『タイム・リープ』は『時をかける少女』のオマージュ作品である。つまり『時かけ』→『タイム・リープ』→『パララバ』というミームの流れなのだ。
 しかし、『紫色のクオリア』といい、こんな面白いSFが眠ってるんだから、ラノベはやめられない。
この記事へのコメント
ライトノベルは聞いたことはありますが、読んだことありません。
ブログを読んで、ライトノベルを読んで見たくなりました。
山本弘先生、買わせようとしてませんか(笑)
本はいつも中古で買ってますが、山本さんや好きな作家の本は新品の本を購入しています。
Posted by ウォッカ at 2010年01月29日 20:14
小説業界のお話ごもっともだと思います。
ただライトノベルが必ずしもカジュアルで入門に適しているとは言えないのではないでしょうか。
ライトノベルで有名な作品は大体シリーズもので、ラノベ読者の方に聞いてもお勧めされるのですが、冊数が多いので時間的にも金銭的にもコストがかかってしまいます。なかなか手が出せません^^;
Posted by ゆいちゃん at 2010年02月02日 09:43
>ウォッカさん

 ありがとうございます。読んでみたい、と思う方が1人でも多く出てきていただけるなら幸いです。

>ゆいちゃんさん

 長いシリーズは僕も二の足踏みますね。だからこそ新人賞受賞作品が入門編としておすすめなのです。新人賞応募作はみんな1巻で完結するように書かれていますので。
 無論、人気があれば続編が出ることもあります。1巻が面白かったら続篇を買えばいいのではないでしょうか。

 また、宝島社から毎年出ている『このライトノベルがすごい!』が、読者投票で選ばれた人気作品をはじめ、前年に出たラノベのほとんどを網羅しており、参考になります。
Posted by 山本弘山本弘 at 2010年02月03日 10:32
私も小学生のころ、故星新一先生のショートショートから読書のおもしろさに目覚めました。友達と互いの本を貸し借りしあったことは、良い思い出になっています。
ただ、学校の先生にはもっと“まともな本”を読めと説教されたりしたことがありました。読書感想文の宿題に無理矢理 発明王エジソンの伝記を指定する先生です...。
「先生の言うことを聞かず、学校に行かなくても、偉大な発明王になれたエジソンを見習いたい」と正直な感想を書いたら、何も言わなくなりました。
Posted by はる at 2010年02月03日 23:40
私の場合は、小学校の図書室で出会ったジュブナイルSF叢書が読書にはまるキッカケになりました。

『SF世界の名作』(岩崎書店)、『創作子どもSF全集』(国土社)等々…中でも、クレメメントの『20億の針』をリライトした『宇宙人デカ』が好きで、何度も繰り返し借りた記憶があります。

また、最も衝撃的だったのは、やはり『人工宇宙の恐怖』(『フェッセンデンの宇宙』)です。小学生の頃にあんな話を読まされたら、それこそとてつもない恐怖に苛まれて夜空を見上げることができなくなってしまいますよね(;´瓜`)

そして高校時代には、学業成績の低下と反比例するように本棚に小松左京、星新一、筒井康隆各先生の著作が増殖を続け、見かねた親から「勉強もせずに変な推理小説みたいな本ばかり読んで!」と小言を言われるのが日課になり・・・。

「いや、勉強していないのは事実だけど、僕が夢中になっているのは推理小説なんかじゃない。もっと面白くて広大で深遠なテーマを内包するSFというジャンルの小説なんだ!」…などと反論しても親の怒りを増幅させるだけなのでグッと抑えましたが、この読書好きが幸いして国語の成績だけは良く、特に作文については書くたびに教師に絶賛され、毎回クラス全員の前で読み上げられました。

また、現在勤めている会社の入社試験で書かされた作文も「抜群の出来だった」と社長から直接お褒めの言葉をいただきました。

このように、時には親に怒られながらも続けた読書でありますが、確実に私の血となり肉となり、実際に入社試験という人生の局面にも役立ちました。
ですので、今の若い人たちにも是非(勉強の妨げにならない程度にw)読書に励んでいただきたいですね。

ただ、私の幼少時代と違って、現在はジュブナイルSFの出版状況は壊滅状態ですが、だからこそ、その事実上の後継者とも言うべきライトノベル作家の皆様には、作品の中にどんどんSF的要素を盛り込んでSFファンの裾野を広げるべく頑張っていただきたいと思います。

そして、いずれは本格的なSF小説を求めて山本先生の作品なども手に取るようになってくれれば・・・。
山本先生自身もおっしゃっていますが、先生の作品は読んでさえもらえば絶対に面白いので、SFに興味・関心がないという理由で読まないのは人生において大いなる損失だと思うんですよね…いや、本当に…。
Posted by ポコイダー at 2010年02月05日 14:02

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